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日志

六畳一間のふたり暮らし

热度 29已有 181 次阅读2013-2-11 17:58

日常


 保育士というのは肉体労働だ。子どもといったって体重は結構あって、地蔵のようにずっしり重たい彼らを一日の半分は抱っこしていなくちゃならない。おもらしをしたら掃除をして、食べ物をこぼしたら掃除をして、おひるねの時間だって別に先生は寝れるわけじゃない。腰は痛いし手はあかぎれが切れるし、いくら子どもを好きだって毎日数十人のわがままを聞いていればいらいらすることだってある。そのくせ給料は安くって、子どもが好きじゃなければとてもじゃないけど続けられないとボクは思う。悪いことは言わないから学校の先生にしておけと、何度も忠告してくれた高校の担任の言葉がふと頭を過ぎていく。給料も倍近く違うし公務員だし、お前の成績で保育士になることはないのだと、真剣な瞳でそう言っていた。確かに、大卒の男がなる職業じゃないのかもしれない。けれど、ボクにはどうしてもそれ以外の選択肢が考えられなかったのだ。
 後悔しているわけじゃないけれど、やっぱり疲れるなあなんて、夜の9時に暗い夜道をとぼとぼ帰っていたりするとつい思ってしまう。うちの園は朝早くから夜遅くまで預けることのできる都心の忙しい家庭向けの保育園で、残業をすればそのぶん手当がつくから、ふつうの保育士よりかは少しだけ給料がいい。ボクがうちを就職先に選んだのは恥ずかしながらそういう理由と、忙しいお父さんとお母さんのいる子どもの世話をしたかったからだ。
 築三十年の木造アパートの階段を、カンカンと音を立てながらのぼっていく。疲労で足が重く、一段上がるごとに子どもをおんぶしているような重さが全身を襲う。手すりを掴みながらやっとのことで二階まで上がり、奥から二番目の自分の部屋までふらふらになりながら進んでいった。
 部屋の前まで行くと、ドアの横にある窓からは光が漏れていた。鍵はかかっていないだろうその扉をあけると、部屋の奥からテレビの音が聞こえてきた。
 ドアを閉めて鍵をかけて、そのままリビングへと進む。リビングというか、この部屋は1Kだからキッチンとバスルームとトイレが両隣りに並ぶ廊下を抜けたら、そのつきあたりにはもう一部屋しかない。ドアを開けると、真っ白に照らされた部屋の中で、黄瀬君が布団に寝っ転がってテレビを見ていた。予想通りの光景に、ボクは口から出ていこうとするため息をやっとのことでのみ込む。
 「あ、黒子っちおかえりー」
 黄瀬君はトドみたいに横たえた体は動かさずに、顔だけボクの方に向けてそう言った。ボクはただいま、とかすかな声で言ってから、どさりと鞄を床に置く。黄瀬君は朝起きたときに着ていたグレーのスウェットのままだった。というか、三日くらいこの格好以外の黄瀬君を見ていない気がする。部屋の真ん中にある炬燵の上には、食べ終わったカップラーメンの容器と、飲みかけのビールの缶が置いてあって、きっと今日も外出すらしていないのだろうと思った。ボクは呆れながらキッチンへと戻る。
 シンクの中には、朝食べたばかりの二人分の茶わんと箸とコップが、そのままの姿でそこにあった。夕飯をつくってくれていることなんてまったく期待していない。けれど片付けくらいしてくれたっていいのに、と思う。ボクは冷蔵庫を開けて、何か食べられるものがないか物色した。スーパーに寄る元気がなかったのだ。冷蔵庫のポケットから冷凍庫の隅まで目を皿にして捜索すると、ラップで包まれた冷凍したご飯が一つと、卵二つとハム三枚、使いかけのバター、キャベツ半玉とちょっと古そうなねぎ、チーズと安いワインが見つかった。チャーハンでも作ろうと思って、フライパンに油をひいて、切った具材とご飯を適当にぶち込んだ。お腹がすいてしかたがなくて、一心不乱にご飯をまぜかえしていると、じゅうじゅうと炒める音に気付いたのか黄瀬君がふらふらとキッチンまでやってきた。おいしそう、と言いながら後ろから抱きついてくるので、体をねじって抵抗する。重いし危ないし、何よりこのままだとチャーハンまでとられてしまう。ボクはお皿に黄色くなったご飯を盛り付けると、千切りにしたキャベツを味噌汁茶わんに入れてドレッシングをかけて(食器がもうなかったのです)、黄瀬君を無視してリビングへと運んだ。黄瀬君はボクのあとをデカい図体でちょこちょこついてくる。ボクがテーブルに今日の質素な晩御飯をひろげて中華匙でチャーハンを食べていると、黄瀬君はじっとボクの顔を見てきた。犬ですか。
 「おいしい?」
 「まあまあです」
 黄瀬君はしばらくそうやって物欲しそうにボクを見ていたのだけれど、このままだと貰えないと思ったのか、キッチンまで行って、お茶のペットボトルを持ってきてコップについで、ボクに差し出してきた。ボクがそれを一口ふくむと、嬉しそうに唇をゆるませる。ご機嫌取りがいい加減うざいので、キャベツのサラダを黄瀬君の目の前に押し出してやった。けれど、黄瀬君には期待外れだったようで、西洋の人みたいに色素がうすくて綺麗な瞳が、つまらなそうにそのうすみどりの山を見下ろした。箸でつつきながら口に運んで、嫌そうにゆっくりと咀嚼する。ボクはため息をついて、半分ほど残っているチャーハンを黄瀬君の目の前に差し出した。黄瀬君は待ってましたとばかりに匙をひっつかみ、チャーハンをかきこむ。それを見ながらボクは余ったキャベツを食べて、お茶を飲んだ。
 重い腰を上げて食べ終わった食器をキッチンまで運びはしたけれど、洗う元気はなかった。リビングに戻って布団に倒れ込む。お風呂も歯磨きもしていないのに、眠くてしかたがない。一度シーツに沈んだら起きあがれない。起きなければと思いながらしばらくうとうとしていると、黄瀬君が隣に寝転がってきた。抱きしめられて腰やお尻をさわられて、ボクはそれを手で振り払った。今日はもうそんな元気はない。けれどそんなボクの個人的な事情を黄瀬君はまったく意に介さず、顔や髪にちゅっちゅっと唇を押しつけてくる。はあ、と100パーセント呆れの感情で構成された吐息を吐く。半ニートの体力の余りっぷり半端ないです。
 ボクがいやいやをしている間に、黄瀬君は勝手にボクの服の中に手を入れて、立ち上がったそれを押しつけてきた。完全にそっちのモードに入ってしまっている。黒子っち、しよ? ね、しようよ、そうやって耳元で囁かれているうちに、心ならずもボクの体はやわらかくなっていってしまう。明日は早番なのに、お風呂入ってないのに、歯磨きもしてないのに、もうすっかりふにゃふにゃです。ほとんどとろけきった頭の隅でそんなことを考えながら、ボクは黄瀬君のあまい口づけをおとなしく待っていた。

 黄瀬君は一応、職業:モデルなんです。けれど売れていない。だからあんまり仕事もなくて、週に一度くらい撮影に行っているだけ。収入なんて日本人の平均よりも低いボクの給料よりも低くて、ほとんど無いに等しい。黄瀬君は中学生とか高校生の時には、若かったし学生だったし、現役バスケットボールプレイヤーっていう売り文句もあったりしたからそれなりの地位を築いていたのだけれど、二十歳をすぎた今ではすっかり鳴かず飛ばずになってしまった。もう学生でもないし業界では特別若くもないし、バスケももうしていないから、ただのイケメンでしかなくなってしまったのだ。ボクはそれでも、黄瀬君ほどかっこいい人は見たことがないと思うし、モデルとして人気になれる要素は十分持っている人だと思うのだけれど、今どきイケメンなんていっぱいいるから、別段たいしたことはないんだそうだ。そう言う黄瀬君は、なんだか昔よりもやる気が無くなってしまったような気がする。青峰君と火神君が揃ってアメリカに行ってしまって、赤司君も紫原君も緑間君も、ついでにボクもバスケをやめてしまって、張り合いがなくなったと言う黄瀬君もバスケをやめてしまった。ボクはアメリカに行くように勧めたのだけれど、黄瀬君はどうしてもそうしようとしなかった。火神君も青峰君も、お前が来れば来るから来いとボクを誘ったけれど、そんなの本当かどうかわからないし、ボクはボクでやりたいことがあるし、第一日本でプロになれないボクがアメリカへ行くなんてとんだお笑いぐさでしかない。そう思いながら、けれど、黄瀬君のやる気がなくなってしまったのは、なんとなくボクにも責任があるような気がして、面倒くさい彼のことを見捨てるわけにはいかなかった。それに、ボクはそんなことやろうと思ったってできないくらいに、このちょっとだめな男の子のことが好きなのだ。

 目が覚めると、黄瀬君の腕の中だった。昨日いつ眠ったのかわからないけれど、たぶん途中で気絶して、そのまま寝てしまったんだろうと思う。その割に体はどこも汚れていなくて、むしろさっぱりしていて、たぶん黄瀬君が拭いてくれたんだろうと思った。黄瀬君は、こういうお世話だけはしっかりとやってくれるのだ。お風呂に入れないボクの全身を温めたタオルで拭いてくれたり、歯を磨いてくれたり、ボクの身の回りのお世話だけはメイドさんみたいにかいがいしくやってくれる。けれど、掃除、洗濯、料理とか、そういうことはできない。というか、できないんじゃなくてやらないんだと思う。やる気がないのだろうと思う。
 ボクは重い腰を上げて起きあがって、キッチンへ行った。時計を見るとご飯を炊いて食べている時間はないけれど、とりあえずお米を研いで炊飯器のスイッチを入れる。黄瀬君の朝ごはんと昼ごはんの分だ。ボクは保育園に行く途中でパンでも買おう。
 髪を洗う為にシャワーを浴びると、黄瀬君が起きていてインスタントのコーヒーを淹れてくれていた。ボクが座ると後ろから抱きついてきて、起きたばかりでまだ洗っていない顔をぴったりとボクの頬につけてくる。こんなにだらしなくっても、黄瀬君はかっこいい。黒子っち、と甘く掠れた声で呼ばれて、ボクは体重を黄瀬君に預ける。
 「黄瀬君、卵があるので朝は卵かけごはんでも食べてください」
 「うん」
 「今日はちょっと食材がないので、お昼はごはんにバターでもかけてください。あとキャベツが切ってあるので食べてください。食物繊維をとらないとダメです」
 「わかった」
 「カップラーメンはだめですよ」
 「…うん」
 黄瀬君はちょっと不満そうに頷く。仮にもモデルだっていうのに、こう言わないと黄瀬君はいつもカップラーメンで済ませてしまう。
 「今日は何時に帰ってくる?」
 「6時くらいだと思います。買い物をしてくるので」
 黄瀬君は6時かあ、と言って時計を見た。あと10時間もあるっスねえとさみしそうに呟く。
 「今日は何が食べたいですか?」
 「んー…何でもいいよ」
 黄瀬君は最近好きなものがない。昔はオニオングラタンスープとか何とかかんとかのパスタとか、お洒落なものが好きだったのに。ここしばらく彼の口から食べたい物の名前なんて聞いていない。
 「何でもいいから早く帰ってきて、黒子っち」
 黄瀬君はそう言うと、ボクのお腹に回した腕に力をこめた。ぎゅうと抱きしめられて、ボクは一緒に胸も締めつけられたように苦しくなってしまう。黄瀬君はきっとさみしいのだと思う。みんなは黄瀬君のことをダメだとかボクに別れた方がいいとか言うけれど、こんな黄瀬君を見捨てることなんてできるはずありません。だって黄瀬君は本当はとってもかっこいいし、やさしいんです。こんなにかっこいい黄瀬君の魅力がわからないなんて、世の中のひとはおかしいです。
 ボクは黄瀬君を見つめた。しょんぼりして、犬みたいに耳を垂らしているのが見える。できるだけ早く帰ってきます。そう言うと、黄瀬君はすこしだけ目を細めて、頷いた。



引き出しの中のコレクション


 お昼寝の時間、すっかり寝ついたうさぎ組を副担任の先生に任せて、ボクは職員室へお昼休みをとりに向かった。片手には、時間がなくて食べきれなかった今日の給食の余り。午後の光がさしこむ職員室で自分の机に座って冷めた豆カレーを食べていると、明るい女性の声が聞こえてきた。二人の若い女の先生が、なにやらコソコソと雑誌をめくって口々に言い合っている。食べ終わったボクが食器を片づけるために立ち上がると、二人はびっくりしたようで、黒子先生いつからいたんですかと目を丸くした。10分前くらいからいました、といつものように答える。
 「楽しそうですね」
 そう言うと、二人は照れたように笑って持っていた雑誌を指差した。今日発売のamam、オトコのカラダ特集だそうだ。表紙には、近頃はやりの男性アイドルが、その意外に引き締まった体を惜しげもなく披露していた。女性はこういうのが好きなのかと驚いて、ボクは目をぱちくりと瞬かせた。
 「好きな俳優が載ってたんですよー」
 そう言う雑誌を買ってきた方の彼女は、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めている。こういうのってどれくらい脱いでいるんですかと少し興味を持って聞いてみれば、彼女はぱらぱらとめくって見せてくれた。
 「みんなパンツは履いてますよ。たまに際どいのもありますけど…」
 俳優、タレント、モデル、歌手、お笑い芸人。半分くらいは、ボクでも知っている、テレビで見たことのある男性だった。それぞれが画面の中で見せるそれぞれの役割の顔ではなくて、ひとりの男の顔として雰囲気のある表情を見せていた。なるほど、これは確かに魅力的な特集かもしれないと思った。
 「島田先生の好きな方っていうのは?」
 「えっとですねー、この人です!」
そう言ってひろげられたページには、肌を小麦色に焼いた、体格のいい男性が寝ころんだままこっちを見ていた。見たことはないけれど、顔も整っていてハンサムだ。
 「こういう感じの人が好きなんですか」
 「そうなんですよー。俳優なんですけど、もうすごい好きで。最近売り出し中で、ドラマとかも出てますよ」
 そう言うと、またぺらぺらとページが進んでいく。表紙を飾っていたアイドルグループの彼は6ページ、次から2ページ、そして1ページと、特集が最後の方になるにつれて、一人に割かれる面積が減っていく。とうとう1ページを半分で分け、二人載りだしたあたりで、ボクはある一点に目を奪われた。
 「あ」
 「何ですか?」
 「すみません、ちょっといいですか?」
 断ってから、ぺらぺらとページを巻き戻す。数ページ戻るとそこには、見知った彼の姿があった。運動をした後という設定なのか、肌にはすこし水滴がついている。黒のボクサーパンツ一枚で立ち、ミネラルウォーターのボトルを片手に口もとを拭いながらこちらを見ている。その目がいつもセックスのときにボクを見てくるあの目と同じで、ボクは体を小さく震わせていた。
 「この人ですか?き、せ…?」
 「あ、はい、知り合いなんです」
 「えー、雑誌に出てる人と知り合いなんてすごいじゃないですかー!モデルさんですか?」
 「そうですね…あんまり売れていないみたいですけど」
 「そうなんですか。でもかっこいい人ですね」
 女性はそう言って微笑んで、雑誌をしまった。もしかしたら知っているのではないかと思って言ってみたけれど、見たこともないような口ぶりだった。口ではかっこいい、とは言っているけれど、彼女の目にとまったわけではないのだろうと察しもついた。黄瀬君は10人に聞けば10人がかっこいいというくらいだけれど、どうにも売れないのはこういうところに表れているような気がした。けれど、ボクにはそれでよかった。そういう黄瀬君のほうがよかった。

 その日、残業が終わってアパートへと帰る途中に、ふとコンビニの灯りを見付けて、何を買うものがあるわけでもないのにふらふらと自動ドアをくぐった。考えないままに雑誌コーナーへ行って、昼間みた赤い大事の雑誌を掴む。そのままレジへと持って行って、店員が探るような視線でこちらを眺めてきたのも構わずそれを買った。外に出て少し歩いてから、買ってしまったという気持ちがどんどん大きくなってきて、ボクは焦った。
 黄瀬君は、自分の写っているものを見られるのを嫌がる。学生の頃うるさいくらいに自分の載っている雑誌を見せてきた彼は、今は自分が写っているものに満足していないみたいだった。昔は表紙とか前の方とか、いい位置にばっかり載っていたから、いま後ろのほうとか、小さく載っていたりとかするのが嫌なのだと思う。だから、自分が載っている雑誌がいつ発売かなんてまったく知らないし、確認もしない。ボクにも見せてくれない。だからボクは、ひっそりと黄瀬君を探していて、見つけると内緒で買ってしまったりする。そして、職場の机の中に隠しておくことが多い。
 自分の写っているものを見せてくれない理由を、黒子っちにはカッコ悪いところみせたくないから、と黄瀬君は言う。雑誌の後ろの方とかに載っていることは、黄瀬君にとってカッコ悪いところらしかった。そんなことはないとボクは思う。一番後ろでも、どんなに小さくても、ボクにとって黄瀬君は世界一かっこいい男の子だ。それに、家でゴロゴロしているこの上なくカッコ悪い黄瀬君をボクは毎日見ているし。(けどこれは黄瀬君には言っていません、これを言うとたぶん泣いちゃうから。)
 雑誌を袋から取り出して、鞄の中のファイルとファイルの間に挟んで隠した。ガサガサとうるさい袋は、丸めてジャケットのポケットに突っ込む。鞄を持ち直すと、ぐう、とお腹が鳴った。コンビニのレジの横にあった肉まんやホットスナックを見たせいだ。家に何か食べるものがあっただろうか。500円あればボクの胃袋をじゅうぶんに満たせるお弁当やパンが買えるはずだったけど、そのお金は1ページの半分にしか載っていない、たった一枚の写真のために使ってしまった。こんなことがまた火神君とかにばれたら優先順位が違うって怒られそうだ。けど、ボクのお腹は相変わらず寂しいっていうのに、雑誌のしまってあるバッグを持つ体の右側が、ホッカイロみたいに温かい。どこに隠そうか。切り取って持ち歩きたいけれど、雑誌の中で輝いている黄瀬君のままとっておくのも素敵だ。
 「黒子っち!」
 ぱっと顔を上げると、黄瀬君が手を振りながらこちらに走ってくるのが見えた。夜でも、黄瀬君がいるとそこは彼を中心に半径2メートルくらいがあかるくなる。ぴかぴかと、星のように光ってボクを導く。
 「あんまり遅いから迎えにきちゃったっスー」
 黄瀬君はボクに並ぶと、ボクの手をとって彼の緑色のモッズコートのポケットに入れた。ちゃんと服を着ている黄瀬君は久しぶりだったので、ボクは彼を見上げてまじまじと観察した。
 「なーに?」
 「何でもないです」
 ぎゅ、とポケットの中で大きな黄瀬君の手を握ると、それを包み込むようにその手が握り返してきた。
 「ねー帰ったらエッチする?」
 「うーん、ボク明日も早いんですよね」
 「じゃあ走ろ!」
 ぐん、と引っ張られて走りだす。しっかりと握りしめられた右手に凄まじい力で引き摺られていく。かなり本格的な速さで走る黄瀬君に、ボクは手を離さないようについていくだけで精いっぱいだった。
 「黒子っち早く!」
 「っ、むりです…」
 「じゃあおんぶしてあげるっス!」
 「えっ」
 黄瀬君がとまって屈んだので、ボクはとんでもないと思って彼から距離をとった。
 「はやく、黒子っちのって!」
 「ちょっと何考えてるんですかっ、やです」
 「あーもう、ちんたらしないで行くっスよ!時間ないんだから」
 黄瀬君はボクを捕まえるとぐんと引っ張って、無理やり背負ってしまった。止めてくださいと言って軽く叩いたけれど、黄瀬君は笑って黒子っち軽いなどと少しいらっとすることを言ってくる。
 「走るっスよー」
 黄瀬君がそう言うと、自分の体ががくっと下がった。そのままがくがくと上下に揺さぶられる。
 「ちょっ、はっ速いです黄瀬君!黄瀬君ってば!」
 言っても黄瀬君はスピードを落とさない。ひゅるりと風を切っていく。ボクは抵抗するのも無駄だと諦めて、大人しく黄瀬君の肩にしがみついた。揺れる景色の中で空を見上げると、天気が悪いのか星はひとつも出ていなかった。黄瀬君といるとその日が晴れだったか曇りだったか覚えていないくらい、ほかのことは目に入らなくなってしまう。ぼんやりと星のない真っ黒な空を見ていたら、いまボクたちはセックスをするためにこんなふうに大至急帰っているんですよねえと、そんなことを思った。なんてくだらなくて、馬鹿みたいなんだろう。その馬鹿らしさが心底おかしくてたまらなくなってきて、ボクは黄瀬君の背中でひとり肩をふるわせて笑った。

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小黑屋|萌子岛

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